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S-46 女形雨乞山と金岳 ー険路歩行練習会2014秋の部ー

2014年11月23日(日)〜24日(月・祝)

金岳Ⅲ峰の勇姿。手前のピナクルもなかなか格好がいい。

   
 今回の険路歩行練習会は、秩父にチョー詳しいT氏の参加を得て、西秩父の不遇ながら魅力的な山に実際に登りながら練習を行うことにした。

一日目 「女形雨乞山」
 地元の人達以外誰も知らない、もちろん地形図には山名がなく、三角点も標高点も記載がない山「女形雨乞山」に向かった。土坂峠トンネル埼玉口から南南西に約1.3キロメートルほどの位置にある830メートル圏の山である。林道に車を止め、そこからわずかの時間で到達できるが、途中の稜線は脆い岩稜あり、急傾斜の登り下りありで初っ端から険路そのものであった。扉に雨粒模様が彫られた可愛らしい祠が鎮座する頂上で、登攀用具を装備し、東へと伸びる稜線に、激しく急な斜面を降りていく。とそこには幅30センチから50センチほどで途中に岩塔がある、長さ10メートルほどのナイフリッジが現れた。
 こんなところにこんなものが、と驚く。さっそくザイルをフィックスし、各自カラビナをザイルに通してセルフビレイを取りながら渡ってみる。思ったよりホールド、スタンスが豊富で全員危なげ無く渡りきったが、高度感は結構あり、当然しくじれば相当なダメージを受けそうである。
 そこからはさらに進むと簡単な岩場を抜けて岩峰の頂上に着き、ここで記念撮影。帰りはここから前回の復習がてら緩い岩場を懸垂下降で降りる。再びナイフリッジを渡っていると、麓から正午を知らせるチャイムが聞こえてくる。雨乞山頂上に戻り、ゆっくり昼食にする。
 昼食後はナイフリッジに戻り、まずは緩い岩壁を懸垂下降。ちょっとブッシュが煩いが、今回練習会初参加のメンバーのために基礎的な技術を体験してもらう。その後はナイフリッジ際の垂壁を下ってみる。下半分は快適な懸垂下降になる。
 「明日の懸垂下降の時は自分で全部やってね」という意地悪な係の声に、参加者は2度3度と懸垂下降を繰り返す。皆さんかなりサマになって来ました。
 練習を終えて車で今宵お世話になるO氏の山荘「酔人山荘」に着き、各自荷物を整理した後、近くの食事処に向かう。そこで小鹿野町名物のわらじカツ丼を食べて再び山荘に戻ったあとは、懇親会となり高級シャンパンや解禁したばかりのボージョレ・ヌーボーで盛り上がるが、もちろんザイルの結び方など基本技術の講習会を行った。ただ、酔人ばかりではどれだけ効果があったかは未知数だ。
二日目 「金岳」
金岳全景 (室久保集落の方のお話によると、金岳は粟野峠から続く稜線のピーク群の総称で、集落から見える顕著な5つのピークを左側の低い方からⅠ〜Ⅴ峰と呼んでいるとのこと。Ⅱ峰が地形図上の511メートル峰、Ⅴ峰が同じく551メートル峰である。本稿ではこの呼び名に従って山名を記述する。)
 彦久保集落の外れから金岳へと向かう稜線に乗る。しばしかなりの急登を時に手も使いながら登るとなだらかになってⅠ峰に着く。地形図ではまるでⅡ峰の肩のように見えるが、Ⅱ峰との間はわずかだが「Ⅰ・Ⅱのコル」状になっている。すぐ前には511メートルの標高点峰であるⅡ峰があるが、直登ルートは脆い岩壁で、途中にランニングビレーが取れるような立木も乏しい。協議の末、直登は危険と判断し、登山口に戻って粟野峠から逆に辿ろうかという話になる。だがコルから東側に急な斜面をトラバースする獣道のような微かな踏み跡があり、T氏とoで偵察する。踏み跡はⅡ峰を完全に巻いてⅡ・Ⅲのコル直下にでた。Ⅱ峰とⅢ峰の間には小さな岩峰がありその両側に急峻なルンゼがあがっているが、Ⅲ峰側はスラブ状の岩盤でおそらく登高は無理であろう。だがⅡ峰側は急な泥ルンゼでなんとか稜線に上がることができた。ここからⅡ峰はそれほどの危険もなく登れそうだ。メンバーの待機場所に戻り、全員で頼りない踏み跡に入る。まさに険路歩行練習会だ。
金岳地図  泥ルンゼに手すりがわりのロープをセットして稜線に登る。ここからは脆い岩と細い潅木を手がかりにしてⅡ峰の頂上に登る。割とあっけなく狭いピークに飛び出した。支部としては初登頂だ。そもそもウェブ上にも511メートル峰に登った記録はなかなか見つからない。
 Ⅱ峰を下り、ロープを撤収してさらに巻き道を行く。やがてⅢ・Ⅳのコル(Ⅲ峰ピナクルのⅣ峰側)にちょっとした岩場を乗り越えて到着する。ここまでは埼玉百山山行で粟野峠から来たところだ。既知の登山道に出て、かなりホッとした。このコルから西側に、Ⅲ峰ピナクルを回り込むとかつて呪術師が集落の運勢を占ったという岩窟が見える。Ⅲ峰の登りにも練習のためロープをセットして慎重に頂上に向かう。Ⅲ峰の頂上はまさに絶頂という感じのピークで周囲の樹木も低く、展望は素晴らしい。ただ足元から切れ落ちているので心安らかには休憩できそうにもない。
 Ⅲ・Ⅳのコルからは、快適な岩稜沿いにⅣ峰を目指す。割と岩も硬く今までとは違い安心感がある。細長いⅣ峰からはⅣ・Ⅴのコルに懸垂下降で降りる。昨日「自分でやってね」とは言ったもののやはり経験者が最終チェックして下降してもらう。その後は緩やかに登って最後の551メートル峰、Ⅴ峰に到着する。Ⅴ峰からも一応最後の仕上げということで、懸垂下降して降りる。全員集合して装備を解除。あとは険路ではない山道を室久保集落に向かい下山する。
 集落に降りると、T氏が前回支部山行の時に色々と教えていただいた住民の方に偶然出会い、金岳にまつわる秩父事件でのエピソードをうかがった。秩父事件をよく勉強しておけば、このあたりの山への興味はさらに深くなるものと思われた。
!!!! ご注意 !!!!
 なお本稿では私達の金岳登頂コースを明示しているが、ロープを使用しなかった場所でも、地形的には一般登山道とはケタ違いの難路である。また赤テープをはじめとするルートを示すものは、粟野峠の指導標以外一切ない。初心者パーティの入山は大変危険なのでご遠慮いただきたい。無理に入山して、万が一事故の際には地元住民の皆様方に大変な迷惑がかかることを心にとめて、くれぐれも慎重な計画と実行をお願いしたい。

Script by o. and Photo by O. & o.

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