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1039 北アルプス/雲ノ平逍遥

2014年8月14日(木)~18日(月)

祖母岳頂上のアルプス庭園へ向かうお花畑の道。

行 程:
1日目  富山駅前5:00=折立7:19-11:42太郎平12:09-14:25薬師沢小屋(実働5時間27分)
2日目  薬師沢小屋5:41-9:20雲ノ平山荘 (実働3時間03分)
3日目  雲ノ平山荘6:10-7:41祖父岳7:44-8:21岩苔乗越8:25-10:10三俣山荘13:38-標高2680m圏-14:25三俣山荘(実働4時間20分)
4日目  三俣山荘5:57-8:22双六小屋8:51-10:36鏡平山荘11:22-13:50ワサビ平小屋14:01-15:08新穂高(実働7時間15分)
5日目  新穂高=平湯温泉=松本駅

 
 
 
 
1日目
 富山駅前のバスターミナルに集合し、5時発折立行きバスに乗車する。2時間ほどバスに揺られて折立に到着するが、自家用車の駐車場はとうに満杯で、路上駐車の列が延々と続いていた。
 折立を出発してほんの数分のところで、藪の中で妙に大きな音がすると思っていたら、後続の登山者が熊を見たとのこと。こんな登山者だらけのところにまで出現するとは驚いた。
 太郎平への道は、最初こそ急な登りで息が切れるが、そこさえ登り切れば、後は展望を励みに緩やかに高度を上げていく快適な登山道だ。初めは薬師岳も望める晴天であったが、徐々に雲量が増えて、太郎平に到着する頃には少々先行きが心配な天気になってきた。薬師沢へ下る道もよく整備された道で、沢沿いの道になってからは、しばしば小沢を横切り、冷たい水が飲める。途中に日本一おいしい水があると後で聞いたが、それはどうも飲み損ねたようだ。
 薬師沢小屋は傾きかけた小さな小屋で、今日は布団1枚に2名という混雑ぶり。黒部源流の沢登りに向かうと思しきヘルメット持ちの登山者が多数見られた。
2日目
 今日は暗い曇天。雨こそ降っていないが、気分の滅入る天気で、しかも道は最初から急登とテンション下げる要因が目白押しだ。急登に喘いでいるうちに雨が降り始めた。しかもどんどん強くなる。溶岩台地に出た頃には、完全な雨降りになってしまった。だが、参加者にとっては久恋の雲ノ平。アラスカや奥日本、アルプスと名付けられた庭園を丁寧に見ながら歩いていく。
 やがて最近建て替えられた雲ノ平山荘に到着する。贅沢な木材を精緻に組んだ素晴らしい小屋だ。靴を脱いで上がりこみ、軽く昼食を摂りながらしばらく様子を見るが、雨は豪雨と言っていいほどで、窓から見えるさっき渡った沢は激流になっている。これはもう今日は無理と、この小屋での宿泊を決める。続々とずぶ濡れの登山者が到着するが、中には登山靴を脱いで中から大量の水をまき散らす人もいる。黒部川源流などの徒渉点が増水しているのかと明日の行程が心配になる。
3日目
 一晩中雨は降り続き、折立に登ってくる有峰林道は通行止め。天気予報も今日明日ともに雨。ここで今回の山行計画は残念ながら中止し、どうやって安全に下山するか思案することになる。最も安全に下山できるルートは、双六小屋から新穂高への下山であろうと考え、今日はまず三俣山荘を目指すことにする。黒部源流の徒渉点をさけるために、祖父岳頂上をまわって岩苔乗越から源流を下れば、水量が比較的少ないうちに沢を渡ることになるので、靴を濡らさずに行けるだろう、あとは三俣山荘までなら楽勝だと踏んで出発した。
 猛烈な風の祖父岳頂上を越えて、確かに源流までは予想通りに進んだ。だが、そこから三俣山荘までの道は、折からの豪雨によって道に沿っている小沢が増水し、溢れ出た水が登山道を流れてまるで沢登り状態。咲き誇る高山植物を愛でる余裕もなく、何とか小屋へとたどり着く。雷鳴も轟いている。当然今日はこれで終了。明日のことも気になるが、濡れ物を乾かしながらまったりと時間を過ごす。
 ところが13時ころから、突然視界が開けはじめ、なんと槍ヶ岳が見えてきた。上空には青空が広がっている。このチャンスを逃さず、せめて鷲羽岳でも往復してくるかと準備していると、夏山診療所が騒がしい。救急搬送が必要な患者が出たらしい。さっきまでの豪雨ではとても飛べるはずのないヘリコプターが、この晴天のおかげでこちらに向かっているという。私たちは鷲羽岳に向かって飛び出していく。少し登っているうちに富山県の赤いヘリが黒部川沿いに飛んで来るのが見え、患者を収容して飛び立っていった。周囲の雲行きを見る限り、こちらも時間との戦いなので、勢いよく登り続けるが、やがて槍ヶ岳が見えなくなり黒部五郎岳あたりにも怪しい黒雲がかぶってきた。ここで時間切れかと標高2680メートル圏、距離にしてちょうど頂上まで半分くらいのところで引き返すことにした。
 小屋に14時30分前に戻ったら、まさにその時、小雨が降り始め奇跡のような晴天は幕を下ろした。この後は再び豪雨になった。訪れる登山者も少なく、昨日に続いて今夜も一人1枚の布団で安眠することができた。
4日目
 今日はあわよくば新穂高まで下山しようと覚悟を決めて歩き出す。風雨は強く、雷鳴がとどろいている。こんな日でもツアーの皆さん方は、鷲羽岳、水晶岳を目指して稜線を歩いて行くそうだ。私は商業ツアーには参加できないなと痛感する。事故に逢えば、たとえツアーコンダクターが責任を負わされて処罰されるとしても、自分かもしれない死んだ人が生き返るわけではないからね。
 私たちは三俣蓮華岳には向かわず、高山植物の咲き乱れる巻き道を行く。時々小沢を渡るが、上流の流域面積はたかが知れているので、水量は想定内、飛び石伝いに靴を濡らすこともなく通過していく。ただ時々小広い草原地帯に入るので、ちょっと頭上の雷鳴が気になり、自然と歩みが速くなる。
 38年ぶりに訪れた双六小屋は、想像以上の豪華な小屋になっていた。今日たどる安全性の高い下山コースを提供してくれるのは、この小屋のご主人だ。感謝もこめてちょっと飲み物を注文する。ここからは一旦笠ヶ岳に向かう稜線に出て、蒲田川へと下って行くのだ。
 やがて稜線に出ると、時々裸尾根を通る。雷様に見つからないように、迅速に通り抜ける。尾根を外れて鏡平へと下り始めて、ここでちょっと一安心。周囲に池を配した赤い屋根の鏡平小屋が見えて、さらにほっとする。小屋につくと雲が切れ、ひと時だが槍穂高連峰が姿を見せた。小屋で昼飯にして、どうやら今日中に下界まで下山できそうと明るい見通しをいだく。小屋をでると、続々と登ってくる登山者とすれ違う。新穂高までの道は健在のようだ。
 途中かなりの勢いで流れる秩父沢と小秩父沢を渡る。ここはもし増水で橋が流されれば通行不能だろう。蒲田川の流れが近づき、道がなだらかになる。そして待望の林道に出た。自然の猛威からの逃避行はここで終了した。
 新穂高に降り立ち、観光案内所で宿を紹介してもらい、今日は温泉旅館に泊まる。宿の目の前を流れる蒲田川はものすごい水量で、窓を開けているとテレビの音も聞こえない。一昨年浦和支部で実施した奥丸山山行の際も、増水で槍平への道に難儀したと報告があるが、その同じ道で今日3人の犠牲者が出た。また、薬師沢小屋で同宿だったと思われる人たちが、赤木沢遡行の途中、増水で行動不能となり心配されたが、こちらは2日間のビバークで無事生還した。
 今回は天候に恵まれなかったが、雲ノ平の素晴らしさは十分に感じられた。次回は好天を期待して、別ルートで行きましょう!

Script and Photo by O.

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