スプリング・エフェメラル

 落葉樹林の林床には、雪解けの頃地上に顔を出し、その後短期間のうちに成長し花を咲かせ、落葉樹の葉が茂るまでの間に光合成を行って地下の栄養貯蔵器官(球根や地下茎)に栄養素を蓄え、その後は翌年の春まで地中の地下茎や球根の姿で過ごす。という生活史を持つ植物が、いくつもある。このような植物を総称してスプリング・エフェメラル(Spring ephemeral)という。春植物(はるしょくぶつ)ともいう。また、その儚い姿から「春の妖精」とも呼ばれる。春先の落葉樹林帯の林床はスプリング・エフェメラルたちでとてもにぎやかになる。
 スプリング・エフェメラルは、温帯の落葉広葉樹林に適応した植物である。冬に落葉した森林では、早春にはまだ樹木に葉が出ていないから、林床には日差しが十分に入る。この明るい場所で花を咲かせるのがこの種の植物である。やがて樹木に新芽が出て、若葉が広がり始めると、林内は次第に暗くなるが、それでも夏まではやや明るい。この種の植物は、この光が十分にある間に、大急ぎで光合成を行い、栄養を地下に蓄える。したがって、これらの植物は森林内に生育しているものの、性質としては日向の植物である。
 スプリング・エフェメラルと呼ばれる植物は、いずれも小柄な草本であり、地下に根茎や球根を持っているほか、花が大きく、華やかな色彩を持つものが多い。小柄であることは、これらの植物が地上に芽を出すのはまだまだ寒い残雪の頃であり、高く伸びては寒気に耐え難いこととともに、花に多くの栄養を割いた結果とも考えられる。また、地下に栄養を蓄えた根茎や球根を持つことは、気温も低く、光も強くない春先に素早く成長し、まず花をつけるために必要である。
 早春の花として有名なカタクリは、地中深くに球根を持って越冬する。地上に顔を出すのは本州中北部では3月、北海道では4月である。つまり雪解け直後に地上に顔を出し、すぐに花を咲かせる。花はすぐに終わり、本格的な春がくるころには葉のみとなる。葉も6月ころには黄色くなって枯れ、それ以降は地中の球根のみとなって、翌年の早春までの約10ヶ月間長い眠りにつく。地上に姿を見せる期間は約2ヶ月だけである。
 例外的にショウジョウバカマは、ほぼ同時期に花を咲かせるが、常緑性で、年中葉をつけている。
 なお、ギフチョウやウスバアゲハ(ウスバシロチョウ)など、春先のみ成虫が出現する昆虫のことをもスプリング・エフェメラルということがある。この語で呼ばれるのは、華やかなチョウが対象になることが多く、そうでないものは、そう呼ばれない。

 この記事は当HP管理人・山野仙人(=塩ア孝壽)が支部山行 No.1200 角田山・樋曽山&雪国植物園に参加した際、雪国植物園のガイドさんから受けた説明とネット情報をもとに記載しました。誤り等がありましたらご指摘ください。