936 宝川・ナルミズ沢遡行

2013年8月11日(日)〜12日(月)

まさに「天国へ続く沢」のフィナーレ。

 「天国へ続く沢、地獄へ続く下山」と言われる奥利根の沢に登る。
 初日は、宝川温泉先まで車で入り、炎天下の林道をひたすら歩く。枝沢に出会うたびに冷たい水が飲めるのはありがたい。以前はかなり先まで林道を車で上がることができたらしいが、今は宝川温泉からほんの少しで通行止めになっている。途中に何かしらの施設があり、送電線巡視路も分岐していくので、もう少し奥のほうまで整備してくれたらと思うのは贅沢だろうか。
 ようやく登山道入り口の指導標が現れ、山道になる。が、この道もなかなかの険路だ。頼りない掴みたくないロープが下がるが、掴まないと落ちそうだ。やっとの思いで渡渉点に着く。だいぶ消耗したことと、重荷で沢を歩くのは大変と考え、ここからは入渓せず、登山道を大石沢出合までたどって、今日はそこで幕営することにした。
 大石沢出合までは、時にぬかるむ中を、少々の登下降を繰り返しながら進む、疲れる道だった。大石沢出合に着くと、周囲には雪渓が残り、なかなか良いテント場が見つからない。ナルミズ沢を少し下降した左岸に草地を見つけ、そこを今宵の宿に決めた。多少傾いてはいるが、すぐそばに乾いた岩盤があり、昼間の日差しに温まった岩の上に食事道具を運んでいつもの宴となった。近くに幕営していた茨城からの登山者が熾してくれた焚き火をともに囲み、宝川の夜は更けた。
 翌日は、テントを撤収し、不要な荷物を大石沢の登山道そばにデポして、軽装で遡行した。まず大石沢出合上流の滝を雪渓をくぐりながら登る。気温が高くなってからはくぐりたくない感じだ。その後は小滝を交えたナメが続き、気分のいい遡行だ。やがて唯一の難所、S字状ゴルジュに着くが、水量が多いのかとても水際をへつる気にはなれない。左岸の踏み跡に入り、足をどろどろにしながら巻く。やがて魚止めの滝に着く。ザイルを出すが、岩もヌメリが少なく、快適に登れた。
 ここからは開けた沢にナメが続く快適な遡行になる。いくつかの小滝、ナメ滝も気持ちよく登れ、沢登の楽しさを満喫する。沢の分岐を確認しながら、高度を上げていく。水量も徐々に減っていく。適当な所で各々ボトルに水を汲み、あとの縦走に備える。やがて、水が消え乾いた岩場を登リ、踏み跡を辿って行くと、草原に出た。「天国」と称される草原だ。確かに気持ちのいい、今までの苦労が報われるような素敵な場所だ。だが、下山のことを考えると、そこまで開放的な気分になれないところが残念だ。
 草原を出発すると、すぐに上越国境の縦走路に出た。とはいっても、ここから大烏帽子へ向かう稜線には踏み跡はない。朝日岳へと南下する稜線には時に頼りなくなるが、十分な道ができている。背の低い笹原を分けながら、そして登ってきたナルミズ沢を見下ろしながら、国境稜線を辿っていく。途中には、沢から見えた岩壁をまとうピークがあり、その頂上に立つとまるで宙に浮いているような感覚になる。ゆっくり休んで、ジャンクションピークへの登りにかかる。細い岩稜が現れ、北海道出身のY氏が「日高の稜線みたい」と教えてくれる。途中一度の立ち休憩を経て、割とあっけなく一般登山道に出た。ここからは、はるかに上越国境の山々を見渡し、近くには湿原池塘の広がるプロムナードコースを歩き、朝日岳頂上へと向かう。
 頂上で展望を楽しみゆっくり休憩した後、下山にかかる。水場は程良く水量が保たれており、冷たい水が補給できた。あとは一気に降りるだけだ。少し降りると、岩場混じりのトラバース道になるが、足場も悪くなかなか難しい道だ。トラバースを終えるとあとは稜線上を一直線に大石沢出合に向かって降りていく。
 大石沢出合で、デポした荷物を詰め直し、さぁ下山だ。暗くなるまでには林道まで降りていたい。脇目もふらずおしゃべりもせず、ひたすら歩く。渡渉点でしばしの休憩。そして再び歩きだす。疲れた足には、一般道とはいえなかなかきつい。それでも陽のあるうちに、登山道入り口に着き、ほっと一安心。あとは暮れていく空と競争するように、林道を歩いていった。まさに「地獄へ続く下山」だった。
 足元もおぼつかないくらいの暗闇の中、駐車地点に着き、ようやく山行を終了した。

script by O., photo by I. and O.

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