757 尾瀬/燧ヶ岳~裏燧

10月8日~9日(日) 一般向き強

熊沢田代 草紅葉の熊沢田代


 沼田駅からのバスは超満員。とても乗り切れそうもないと見えた数の登山者を奇跡的に全員乗せて、ようやく駅を出発する。バスの手すりにぶらさがり、身体は斜めのまま、まるで通勤地獄の満員電車。こんな状態で大清水までもつのかしらと最初から「遥かな尾瀬、遠い空♪」という気分。
 やっとの思いでたどり着いた大清水からは、いつもの通りの、それぞれに通い慣れた道を、一路尾瀬沼へと歩を進める。道すがらの木々は紅葉にはほど遠く、どうもいやな予感。それでも三平峠の手前で、赤く染まった木を見つけてちょっと胸をなで下ろす。
 三平峠を下り、尾瀬沼畔へと出る。湿原の草紅葉が黄金色に染まっている。そして本来なら、燧ヶ岳の山肌にも、まるで金砂を撒いたように点々と黄色く色づいた木々が見えるはずなのだが、今日はまるで見えない。
 いやな予感は的中。今年の紅葉は遅れ気味らしい。それと、数日前に雪が降り、紅葉する前に落ちてしまった葉も多いようだ。それでも今日の素敵な空模様に一同の表情はまんざらでもない。
 長蔵小屋の朝は、素晴らしい晴天に明けた。気温も高く、霜が降りなかったようで、木道も草紅葉も乾いている。山小屋の朝食前に草原から燧ヶ岳を眺める。ようやく日の差し始めた山体は心なしか昨日より色づいているようにも見える。
 大江湿原の入口では、すでに多くの登山者が、写真を撮ったり、それぞれの目的地へと急いでいる。夜行電車で来た人達らしい。
 小屋を出発してから、長英新道に入るまでは、沼の畔を歩いていく。沼には朝靄がかかり、沼尻の休憩所に向かう舟が沼を横切っていくのが見えた。
 やがて分岐点に着くが、その少し先が湿原になっており、そこからは沼と燧ヶ岳がよく見える。しばし、撮影タイムのあと、燧ヶ岳を目指して長英新道に入る。
 長英新道は、緩やかな上り坂であるが、道は雨水の通り道で、足下がぬかっていてところどころ歩きにくかった。
 標高を上げて、稜線にとりつくと木々の間に遠くの山が見えてくる。道はぬかって、ザックを下ろして休む場所もなかなか見つからない。
 やがて、森林限界が近づいて視界が開けてくるとようやく地面も乾き始める。背後に会津駒ヶ岳が見えてきた。尾瀬沼を見下ろせば、沼一面に波頭を光らせている。やがて頂上、俎嵓が見えてきた。沢山の登山者がいる。
 頂上の一角に辿り着くと柴安嵓が見えるが、その間の登山道にも沢山の登山者がひしめいている。俎嵓への最後の登りも、下る人とすれ違うのに苦労する。頂上での記念撮影も大変。もちろん大漁旗を出すのがはばかられる。
 ザックをデポして、柴安嵓を往復しようとするが、ザックの置き場にも苦労する程だ。さらに柴安嵓への道は、交通整理が必要な程の大混雑。遠慮深い、控えめな人は、いつまでたっても登れない。「天気予報め!」
 頂上からは、上越国境や日光の山々が大展望であった。見下ろす尾瀬ヶ原はもうすっかり草紅葉と言うより枯れ野である。頂上から見下ろすと、山肌には点々と赤や黄色に染まった木々が見え、ちょっと紅葉狩りの気分になる。頂上で昼食の後、裏燧を御池に向かって下山する。
 足元に気を遣う、急な山道を下っていくとまだまだ登りの登山者とすれちがう。下りでは丁度いいコースタイムごとに、熊沢田代、広沢田代という湿原がある。
 熊沢田代は、一見2段になったように見える大きな湿原で、草紅葉が美しい。少し紅葉し始めた木々が、常緑樹の林に彩りを添えている。池塘の畔で、ゆっくりと小休止する。振り返ると色づき始めた燧ヶ岳が、もう既にかなり高くなった。
 再び木道を辿り、広沢田代へと向かう。草紅葉の中に、木道が伸びている。まさに尾瀬ならではの風景だ。ところどころ足元がぬかるんで、歩きづらいところもあるが、順調に下山を続けていく。
 広沢田代は、いくつもの池塘が散在する湿原だった。ここからは一気に御池まで下っていく。
 そして割とあっけなく、御池登山口に降り立った。昨日の群馬県側の印象から、会津高原尾瀬口駅までのバスが心配だったが、こちらのバスは次々と増発され、我々の乗ったバスは、座席定員かつノンストップで駅まで直行するというサービスぶり。会津バスって素敵。これでは尾瀬の玄関口は、福島県になってしまうぞ、群馬県もちょっと考えた方がいいのではと、苦言を呈するが、ここからでは届くわけもないか。(O記